ホワイトサンズ事件第二部⑧

薄化粧して苗木市覗くかな    美代子


 「この宇宙船やわれわれ宇宙人について君が知りたいと思う物事のすべてを完全に理解させるほどの時間はない。だが君にとって奇妙なと思われる基本的な原理を少し説明できるだろう」と声が言った--というよりも私の声が言ったのだ。なぜなら聞こえてくる音は音波として耳にはいってくるのではなく、私の脳の中で直接に発生していることに気づき出したからである。
 「君が見ていたドアーは透明になったのだ。これで君は驚いている。なぜなられは金属というものを完全に不透明なものとして考える習慣があるからだ。しかし普通のガラスは金属類と同じほどの密度があり、しかも固いのだが、それでもきわめて容易に光を透過させる。いまドアーの金属の表面に作用しているエネルギーのビームは、いわば振動数増大器とでもいうべきものだ。このビームは金属を透過して、そこへやって来る光に作用する。これは光の振動数が君がエックス線として知っている物と宇宙線スペクトルとのあいだの幅の振動数まで増大されるからそうなるのだ。このような振動数になると光の波はまったく容易に金属を通過する。そこでこの波がドアーの内壁上で金属から離れるとき、ふたたびビューイングービームと相互に作用し合って、光のもとの振動数と同じである、いわゆる、"ビート"振動数を生じさせる。そこで君は表面的には金属を透して見ているように見えても、実際には再生像を見ているのだ。君の準備ができたら宇宙船を発進させよう」
 本能的に私は座席の中に自分をしっかりうずめて、両手でヒジかけをにぎった。一瞬の後に地面が突然すさまじいスピードで船体から下方へ落ちて行った。私は地面が、"落ちて行った"と言うが、それは自分のからだが全然動きというものを感じなかったからで、しかも船体は岩のように固いのだ。このとき少なくとも10Gの割合で加速していたにちがいないが、私はジッと静止していたと断言できる。
 小さな丘のむこうにかくれていた実験場の陸軍基地の燈火が急に視界にとび込んできて、母鳥から呼ばれたヒナ鳥たちのようにいっしょに流れ始めた。数秒後にはラスクルーセスの町の燈火が窓の左下方に見えてきて、わずか二、三秒間で少なくとも一千フィートも上昇したことがわかった。船体は上昇するにつれて左の方向へわずかに回転している。ラスクルーセスからエルパソヘ続くハイウェーも見える。狭い道路だけれども、そこを走っている無数の自動車のヘッドライトできらめくリボンのように輝いている。エルパソとシウダド・ホアレスの燈火は地平線上のかたまったにぶい光にすぎなかったが、上昇するにつれてそれが接近して種々の光の帯のように分かれてくるように思われた。プレシディオ地域を示す光の帯や、フォートブリスの無数の燈火、エルパソ下町地区の強烈な燈火帯なども見える。またエルパソをメキシコ側のシウダド・ホアレスから分けているリオグラソデ川の薄黒いスジを識別できたとも思った。更に数秒間たって船体はなおも回転していたが、やがてこれらの都市の燈火がスクリーソの右手の端に消えてしまった。
 ビュイング・スクリーンはいま南東の方に向かっていて、船体の回転はとまっている。もう地球の表面はかすかな緑色のリソ光を発して輝いているように思われた。同時に船体の外の空はうんと暗くなり、星々の輝きは倍になったような感じがする。
 「成層圈にはいったにちがいない」と思った。「そうだとすれば、十五ないし二十秒ばかりで十マイル以上も上昇したのだろう。だが加速の感じが全然しない」
 「君はもう地表から約十三マイルの所にいる」と声がするのが聞こえる。「そして秒速約一、五マイルで上昇しているんだ。少し速度を落としたから空中から地上の都市をもっとよく見ることができるだろう。水平飛行をするために三十五マイルまで上昇させよう。その高度なら船体の動きに対してほとんど抵抗を示さないほどに空気が希薄になってくるんだ」
 「ところで」と私は尋ねた。「月はどうなったんだ? ぼくが船体にはいったとき、月はちょうど昇ってくるところだった。まだ空中のどこかにいるにちがいないが、外は何もかも真暗だ」
 「暗く見えるのは光を散らすほどの十分な空気がこの高度にないからだ。月がスクリーソ上に直接輝かないかぎり、月光の形跡が君には見えないだろう。月光は大気の上で非常に激しく輝いているので、私はわざと船体の回転をとめて月光をスクリーンに出さないようにした。月が見えているあいだに他の物を見るのは不可能ではないにしても困難だろう。君はもう垂直に水平運動を加えるほどの高度に達しているのだ。このあと数分間は見ておもしろいものはないだろうから、ここで君をいぶからせていたこ、三の物事について説明しよう。まず第一に、君は"安全ベルト"について何か言って、加速に耐え得るかどうかと考えた。これは君の惑星の科学者たちの心にしばしば浮かんでくる疑問だ。
 われわれの宇宙船が地球人から観測されるときや、宇宙船の速度や加速度について話が出るときには、必ず不信感が起こる。地球の第一流の科学者が次のように言ったのを聞いたことがある。「人間その他の高等生物がこの種の加速度に耐えられるはずはない」これは地球人の知性を評価する際にいつもわれわれを失望させる問題だった。地球の一般的な知識を持つ普通の知的な素人でさえも、この言葉をただちに否定できるはずだ。もちろんこの解答は簡単だ。船体を加速させるフォース(力)が、船体自体のあらゆる原子ばかりか内部に乗っているパイロタトまたは乗員などの人体のあらゆる原子にも等しく作用するのだ。
 地球の飛行機は状況がまったく違う。プロペラまたはジェットがついていて、それが機体の一部に推力を加える。この部分的な推力が機体を加速するが、パイロットまでは加速しない。パイロットは座席に密着している肉体の各部分を押しつける推力によって加速されるにすぎない。すると肉体の他の部分の慣性のために圧迫が生じて、そのために加速感が起こり、極端な場合は意識不明または肉体の崩壊が起こる。われわれの加速度の唯一の限界は、利用し得る力の限界なのだ」
 「しかしこの場合は、なぜ私は落下する飛行機の内部の人間や物体のように空中に浮かばないのだろう。」と私は思った。
 「その答もまったく簡単だ。船体が動き出す前に君は座席にすわった。すると君の肉体と座席とのあいだに一つの引力が作用したのだ。船体と君のからだの両方を加速するこの力は等しい割合で物体に作用するし、地球の引力もこの両方に作用し続けているので、君のからだと座席のあいだのもとの力はいつまでも残っている。ただし地球の引力が距離とともに減少するにつれてその力も減少する。
 惑星と惑星のあいだを航行するときは自然の引力の源泉からはるかに離れてしまっている。それで実際的な理由によって、この引力を人工的に作り出す必要があるのだ。われわれが慣れている引力は地球の引力の二分の一程度にすぎない。これが、われわれが地球人の仲間になるのに多くの時間のかかるおもな理由だ。いまわれわれが地球の表面に着陸して、船体の保護装置をとり去ると、高い引力のためにわれわれの肉体の内臓にひどい緊張が起こって、数日間で重病となり、ついには死ぬだろう。これは単なる予測ではない。過去に数度起こったために真実であることがわかっているんだ。われわれが受けているその引力をコントロールできる船内にとどまって、わずかながらも一定の増加力によってその力を増すことによって、われわれは補充組織を作り上げて筋肉を強化でき、やがて地球の引力もわれわれの引力と同じほど自然に利用できるようになるだろう。
 そうなったら、君やオープンマインドを持つ少数の地球人がわれわれを援助して、われわれと君たちのあいだに存在している大きなフチに橋をかけることができるだろう。だが前にも言ったように、われわれは自分の知識や文化を地球人に押しつける気は毛頭ないし、地球人がそれを望んでいるというはっきりしたシルシが出てくるまでは地球人に近寄ることもしない。
 この地球探険の目的はまったくの博愛のためではない。地球人とわれわれの両方の進歩のために利用できる物質が地球にある。地球だけにあってこの太陽系の他の惑星にはほとんどないような物質だ。われわれはこの物質の利用を望んでいるけれども、われわれの地球人に対する奉仕はこのような物質の利用次第でなされるのではない。こちらから与え得る知識または援助は自由に提供されるだろう」
 「この宇宙船の作動原理を説明してくれないかね?」と私は尋ねた。「この宇宙船をこんな高速に加速できるほどのものすごいエネルギーをどうやって作り出すのかね? またそのエネルギーを応用しているという形跡を外部に洩らさないで、どのようにしてそれを応用するのかね?」
 「それを説明するには基礎物理学のまったく新しい原理を君に伝える必要がある。前にも言ったように、君たちの科学は一本の低い枝を知識という全体の樹木に代えていて、そのために科学がひどく複雑になっている。そこでこの科学が実用面で応用されると、できあがった装置は手が出ないほど複雑になる。たとえば、君の国の科学技術者はいまいわゆる原子エネルギーで推進する潜水艦の建造計画に従事している。(注=この記事はかなり昔に発表されたものである)彼らは原子炉を建造してこれをやろうとしている。その原子炉の中ではウランの軽いアイソトープが熱エネルギーと数個の中性子を放ちながら分裂し、これが他の重いウランに吸収されて、またそれが分裂する。かなり複雑だけれども、この方法は地球人がいままでに作り出した方法としては最も有効なエネルギー発生法だ。しかしこの熱エネルギーを宇宙船の推力に変えるために、彼らは原子炉の中に流動体を循環させようとしている。つまり熱変換器の中に流動体を循環させて圧力下に別な流動体を蒸気に変え、この蒸気をタービソの中に通してタービンを回転させ、それによって発電機を廻して電力を得ようというのだ。もし彼らが三〇パーセントの総合的な効果をあげれば、これはたいした技術上の功績ということになるだろう。
 だがもし彼らがもっと簡単な言葉で考えることができれば、現在持っている知識でもって核分裂炉のまわりに簡単な熱電対を作って、発生す温度変化を直接に電気エネルギーに変えることができ、少なくとも九四ないし九八パーセントの効果をあげられるだろう。これには可動部分は不要だし、費用も安上がりで、エネルギー出力の単位あたり少ない物量ですむ。だがわれわれの方法にくらべれば、この方法さえも不経済で複雑なように思われる。
 君たちにとって最も必要なのは、自然の基本的法則または事実がまったく簡単だということを発見することだ。そうすれば君たちは現在不可能に思われる物事を容易に生み出すことができるだろう。
 地球の技術者が貨物または乗客の輸送用の乗物を作る場合、彼らは推力として乗物自体の中にエネルギー発生機を作る手段を講じる必要があると考えている。しかし地球人の祖先は数千年間船に乗って地球のあらゆる場所へ旅行した。この船というやつは内部にエネルギー源を持たな
いで、まったく大気の運動のエネルギーによって動かされたのだ。これは必ずしも頼りになるエネルギー源ではないけれども、結構うまくいったものだから、自然界では多くのタイプのエネルギー発生源がいつも利用できるのだということを地球人に気づかせたはずだ。だから望ましい結果を生み出すためにエネルギーの流出を見るような方法を講じさえすればよいのだ。(以下次号。久保田訳)

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